Accueil / ホラー / 屁たれたちの挽歌 / 014 嗚呼、坂口さん!

Share

014 嗚呼、坂口さん!

last update Date de publication: 2026-03-10 11:00:13

13階でドアが開いた。

ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。

坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。

その時、またあの声が聞こえてきた。

「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」

「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」

健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。

声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。

健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。

その時、玄関のドアが静かに開いた。

「坂口さん、行きまっせ!」

「分かった!」

二人が同時に足を踏み入れる。

「な……」

健太郎が我が目を疑う。

そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。

バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。

そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。

「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな……」

足元は細いコードで埋め尽くされ、それが一方向に集まっていた。

そこはレースのカーテンで仕切られていて、何者かが椅子に座り、窓の外を眺めているのが見てとれた。

「あっ!」

健太郎が思わず叫んだ。

カーテンの傍らで、涼子と藤原の母親がコードで拘束されていたのだ。

「涼子ちゃんっ!」

健太郎が叫ぶ。

「大丈夫ですよ、健太郎さん……お二人には少し眠ってもらっているだけです……お二人は藤原君の大切なご家族なんです……僕が傷つける訳がありません……

それより健太郎さん……僕の声にまだ気付きませんか……僕が誰か、まだ分かりませんか……」

椅子に座る男が健太郎に問いかける。

その声は確かに、健太郎にとって聞き覚えのある声だった。

健太郎が腕を組み、首をひねる。

「そやねん……下で聞いた時から、どっかで聞いた事のある声やなって思てたんや……それもかなり昔にな」

「ふふふっ……嬉しいですね、健太郎さん……まだあなたの中に、僕の存在はあったんですね……さあ、思い出してください。僕は屁たれの」

「岩崎雄介!」

健太郎が叫んだ。

「そう、その通りです……僕は岩崎雄介です」

「雄介、なんでお前がこんな所に」

健太郎が驚きを隠せず、そうつぶやいた。

「やっと思い出してくれましたね……懐かしいです。高校以来、かれこれ十数年ぶりですか」

「何や山本君、知り合いやったんか」

「ええ、こいつは屁たれの雄介、岩崎雄介です。高校の時に同じクラスやったやつですわ」

「そうか、こんな所で旧友と再会か」

「はい。そやけど正直こいつの事、よぉ覚えてないんです。卒業してから全く会ってなかったですし。元々僕と藤原、本田は一年の時から一緒におったんですが、二年の後半ぐらいから、よぉ僕らの後ついてきてたような感じで」

「なんや山本君、ちょっと薄情すぎひんか。同じグループやったんやろ? よぉ覚えてないやなんて、それは余りに可愛そうやで」

「いや、それがほんま、マジで覚えてないんですわ。覚えてるんは、屁たれって呼んでたことぐらいで」

「でしょうね、健太郎さん。あなたにとって、いや、あなたたちにとって僕は、その程度の存在だったと思います……僕はいつもそうでした……どこにいても相手にされず、いつもいつも孤独でした……この世界から僕は、忌み嫌われていました……

辛い日々でした……ですがようやく、僕の存在を忘れていたあなたたちに、僕をさげすみ続けてきた世界に復讐する時がきたのです……この大阪での出来事は、その第一段階にすぎません……僕はこの力を持って、世界を支配します……藤原君と共にね……」

「はぁ? 藤原ぁ?」

「そう、彼だけが僕の味方です……彼だけが僕の友達です……藤原君と共にこの世界を支配し、地上を見下ろして共に笑う……それが僕の夢です……」

「何や。彼、藤原君とそないに仲良かったんか?」

「いや……全くもって、覚えてないんですが……」

その時であった。カーテン越しに、雄介の頭からシュルシュルと何匹もの蛇が動くのが見えた。

坂口が叫んだ。

「やっぱりそうや! 山本君、彼はゴーゴンの力を持ってる!」

「……顔を見たらあかんのですね」

「そや、安眠マスクや! これさえつけとけば石にされる心配はない!」

「はいっ!」

二人が揃って坂口愛用、70年代少女漫画のキラキラ光る瞳が描かれた安眠マスクを装着した。

「……坂口さん。どうでもええですけど、もうちょいシリアスなマスクはなかったんですか」

「いや、こんな時こそ心に余裕や。人間、笑いを忘れたら終わりやで。何より僕ら、大阪人なんやから」

「はあ……」

「そんな事よりええな、山本君。心眼やぞ。心眼でやつの首を叩き落とすんや!」

「分かりました!」

健太郎が気を取り直し、ショットガンを肩に掲げ、右足に巻きつけていた鉈を手にした。

雄介が立ち上がり、ゆっくりと振り返り二人を向く。

心眼、心眼……健太郎が神経を研ぎ澄まし、雄介の気配を感じようと意識を集中させる。

その時坂口が、十字架を掲げて大声で叫んだ。

「悪魔の下僕よ! 汝に申し伝える! この世界から立ち去れ! 速やかに悪魔の世界へ戻るのだ! 悪魔の下僕よ! 汝に申し伝える!」

「ちょ……ちょっと坂口さん」

「どないした、山本君」

「いやあの……ちょっと黙っといてもらえますか。すんませんけど、集中できませんので」

「あぁそうか、すまんすまん。黙ってやるわ」

健太郎が再び雄介の気配を探る。

(来とる……こっちに向かっとる……もうちょい、もうちょいや……感じるで……)

健太郎の額に汗が流れる。鉈を持つ手に力が入る。

「感じてきたで……見える、見えるで雄介……!」

気配が間近に迫ったその時だった。

「今や! 死にくされっ!」

健太郎が渾身の力を込めて鉈を振り下ろした。

「うりゃああああああああああっ!」

* * *

ドサッ……!

振り下ろした鉈に、確かな手応えを感じた。

「よっしゃ! やったで! 坂口さん、やりましたで!」

健太郎が雄叫びをあげ、勢いよく安眠マスクを取る。

「……あ、あじゃ……」

―そこには坂口の首が転がっていた。

「しもた……しもたしもたしもたがな……」

健太郎が頭を抱えた。

「あかん……あかんあかんあかんがな……このオチはスイカ割りと同じやないかえ……」

「ふふふっ……はっはっはっ」

雄介の甲高い笑い声が聞こえた。

「なかなか面白いオチでしたね……さあ健太郎さん、次はどうしますか」

「くっ、おんどれっ……!」

健太郎がそう言って再び安眠マスクをしようとした、その時だった。

「藤原君!」

雄介が叫んだ。

「何、藤原やと……やっと来たんかえっ!」

藤原は石像に抱えられ、マンションまで運ばれてきたのだ。

「藤原君、藤原君!」

インターホンに向かい、狂喜する雄介が叫ぶ。

その声に、意識を失っていた藤原が、はっとして起き上がった。

「藤原君! さあ、入って! 入って!」

ドアと共にエレベーターが開いた。藤原が頭を振り、気を持ち直して中に進む。

「ああ……やっと……やっと藤原君に会える……」

雄介の声が踊っている。

「せいっ!」

藤原が自販機に正拳を叩き込む。

その衝撃で缶ジュースがいくつも、取り出し口にゴロゴロと落ちてきた。

その中から水を掴むと、頭からかぶって気合を入れなおした。

「この声……やつや、やつに違いない……大阪を滅茶苦茶にしたんは、あいつやったんかい……!」

エレベーターから降りた藤原が、玄関に立った。

ガバメントとグロックのマガジンを入れなおし、両手で構える。

「いよいよやな……化物の黒幕とのご対面かいっ!」

玄関のドアがゆっくりと開いた。

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Latest chapter

  • 屁たれたちの挽歌   019 エピローグ

    半年後。戦いは終わった。数百万の犠牲を払った大阪に、少しずつ活気が戻りつつあった。事件の真相は当然、誰にも分からない。全てを理解しているのは、藤原と涼子だけ。そして二人が、それを口外する事はなかった。* * *徘徊していた数百万にも及ぶ石像たちは皆、元の姿に戻っていた。しかし坂口の言っていた、「首謀者を倒せば、呪いが解けて皆が助かる」と言う言葉は、残酷な答えとなって返っていた。確かに元の姿に戻りはしたが、脳味噌を排出した人々が再び蘇生する事はない。市内は数百万人の死体の山、ゴーストタウンと化していた。学者たちは頭を悩ませ、連日この惨劇を巡っての議論が続いた。だが誰一人として、答えにたどり着くものはいなかった。藤原は思っていた。(呪いからは解き放たれた……魂っちゅうもんがあるんやったら、みんな、安らかな眠りについた筈や……そうや、絶対そうや……)* * *雲ひとつない透き通る青空を、ベンチに座って見つめている藤原と涼子。藤原が涼子の頭を優しく撫でた。「お兄ちゃん、屁たれにだけはなりたくないね」涼

  • 屁たれたちの挽歌   018 決着

    爆発が起こった。衝撃で部屋が揺れる。「なるほど……健太郎さんにしては、なかなか格好いい最後だったようですね、ふはははははははっ!」「くっ……健っ……!」素早くマガジンチェンジを行い、藤原が雄介目掛けて発砲する。その藤原の体を、雄介の鋭い視線が容赦なく切り刻んでいく。* * *その時、爆発音に妖しい眠りから覚めた涼子の視界に、雄介と戦う藤原の姿が映った。「……お……お兄ちゃん……」涼子が体に巻かれたコードを外そうとあがく。幸いにもコードは緩く締められていて、何度か試みている内に外す事が出来た。―涼子の目に、床に転がる鉈が映った。涼子が鉈を手に取り、ゆっくりと立ち上がった。「ふはははははははっ! 藤原君、そろそろお別れの時ですね! 僕を裏切った事、あの世で後悔してください!」涼子が鉈を振りかざし、雄介の後ろに立った。藤原は壁にもたれかかり、諦めきった表情で両腕をだらんと下ろした。「よりによって、屁たれのクソダコに殺られるとはな……」「死ねっ!」その時だった。「やああああああああっ!」

  • 屁たれたちの挽歌   017 健太郎に幸あれ

    雄介が拳を握り締め、わなわなと肩を震わせた。レースでよく見えないが、泣いている様に見えた。そしてしばらくすると天を仰ぎ、藤原への思いを断ち切る様に笑い出した。「あっはっはっはっ!」虚しい笑い声が、室内に響く。「分かりました……僕には……僕には友達なんかいなかったと言う事ですね……じゃあ僕は何ら遠慮する事なく、この力を持って世界の頂点に登ります……やはり頂点は一人なんですね……まずは健太郎さん、あなたです……あなたには最高の舞台を用意しましょう……直美さんっ!」「何……直美ちゃん、やと……」雄介の声にバスルームの扉が開き、中から直美がゆらりと姿を現した。「直美ちゃん……無事やったんかえっ!」「待て健」身を乗り出して叫ぶ健太郎を、藤原が制した。「よお見てみい、目が死んどる」「な、直美ちゃん……」「彼女はもう、僕の忠実な下僕です。彼女の能力は素晴らしい物です。石像にしてしまうには余りにも惜しい、そう思いましてね。彼女にはその姿のまま、僕の番犬になってもらったんです。さあ直美さん! まずは健太郎さんを殺して下さい!」その声に、直美の肩がピクリと動いた。&nbs

  • 屁たれたちの挽歌   016 衝撃の事実

    10分後。「ええ加減にさらさんかえこのボケッ!」健太郎が藤原の後頭部を張り倒した。「ごっ……!」衝撃で目から火を出した藤原が、思わずうなる。そして静かに、大きく深呼吸すると手を挙げ、二人に言った。「すまん、ちょっとタイムや……」ポケットから煙草を取り出し、くわえて火をつける。「ふううううぅっ……」白い息を吐き、眉間に皺を寄せ、天を仰ぐ。「……よし、もう大丈夫や……いわちゃき、いや、岩崎雄介やな、分かった……」煙草を床に捨て、踏み消した。「……そやけど、岩崎雄介……そんなやつ、俺知らんぞ。訳の分からん事ぬかしやがって……それも人の事、馴れ馴れしぃ呼びくさって」「正気に戻ったかえ。そやけどちょっと待てや、その話は後や。おえ屁たれ! 先に俺が質問するっ! お前がどないして、そんな訳の分からん能力を得たんか、まずはそっからや! さあ、答えたらんかえっ!」健太郎が雄介にショットガンを向けて吠えた。健太郎の問いに、思考が停止していた雄介もようやく我に帰った。「……い、いいでしょう&

  • 屁たれたちの挽歌   015 壊れた藤原

    銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。「藤原、目えつむれっ! やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった! 顔見たら石にされてまうぞっ!」健太郎が大声で叫んだ。「……分かった」藤原が静かにうなずき目をつむり、安眠マスクをしようとした。その時だった。「藤原君! 心配しなくていいよ! 君に危害を加える様な事は絶対にしない! する訳ないじゃない! さあ、目を開けて!」雄介の狂喜する声が響いた。「何を! 騙されるかえっ!」「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。「……」藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。彼の目に映ったもの。それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。「坂口さんも……やられたんか……」「お

  • 屁たれたちの挽歌   014 嗚呼、坂口さん!

    13階でドアが開いた。ショットガンを突き出しながら、健太郎が素早く左右に目を這わせた。坂口は十字架を天高く掲げ、健太郎に続く。その時、またあの声が聞こえてきた。「心配ありませんよ……ここに石像はいません……いるのは僕だけです……」「くっ……こんガキ、とことん挑発してけつかる……まあええ、行ったろやないかえっ!」健太郎が吠え、大股で藤原の部屋に向かった。声の主の言う通り、石像に遭遇する事無く、二人は藤原の部屋の前に立った。健太郎と坂口が顔を見合わせ、互いにうなずく。その時、玄関のドアが静かに開いた。「坂口さん、行きまっせ!」「分かった!」二人が同時に足を踏み入れる。「な……」健太郎が我が目を疑う。そこは既に、健太郎が知る藤原の家ではなくなっていた。バスルーム以外の壁が全てなくなっており、3LDKの部屋が大きな一室になっていた。そして至る所に、藤原の写真が所狭しと貼られていた。「な……なんじゃこの部屋は……藤原、藤原だらけやないか……あいつ、こないナルシストやったんかいな&hellip

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status